閃火高遠乱舞
6
一般的に、秋は戦争をしない季節とされている。
それは、民の収穫を重視しているためだ。
田畑を荒らしたくないと考えるのは、どこも同じであろう。
日本もまたそうだ。
秋は休息の季節。
国を栄えるための労力に励みつつ、じっくりと待つ。
我慢の時期である。
そんな中、帝は、宝王子に指令を下した。
アメリカへ飛べ、と。
そのため宝王子はいま、アメリカにいる。
場所はワシントン州に位置する、コロンビア特別区。
中央に主城コロンビア城がそびえる、中枢区域だ。
コロンビア城を眺めながら、宝王子はずずっとカフェオレを口にする。
通り過ぎる人にはバレぬよう、両目はカラーコンタクトでブルーアイにしてある。
髪色はもともと薄いため、特にいじる必要はなかった。
そんな中、ふと宝王子は一人の青年に目を止める。
さらりと肩にかかる金糸の髪を結うことなく流し、縫うようにして人込みを歩いて行く。
双眸は深い翠緑色を湛え、鋭い眼光を放っている。
紛れるようにしてはいるが、ただ者ではない。
姿勢に隙はなく、余計な力も入っていない。
軍人かはまだ判断できないが。
宝王子はそう思うと同時に、飲んでいたカフェオレを一気に飲み干した。
それをポイとくずかごに放りながら、立ち上がる。
彼が近くのカフェに入ったのが見えたからだ。
これを逃す手はない。
そそくさとカフェのドアを潜り、姿を探す。
席はいっぱいのようだ。
あちこちから穏やかな会話が英語で聞こえてくる。