閃火高遠乱舞


 ようやく仕事が楽になってきたころ、再び軍議が開かれた。第三勢力を宣言するのは簡単だが、やらねばならぬことは山積みなのだ。
「まずは旗ですが、何か文字を入れたいと思っています」
 色は朱か白。日本だけでなく、同盟軍全てを表す柄にする予定でいる。しかし、そこに、あえて日本を表す漢字を入れたいと大山は考えていた。
「新撰組みたいに『誠』とか?」
「さすがにそのままは…ねぇ」
 林が言うと、大山がすぐさま却下する。その間みんなも考えているのか、室内はしんと静まり返っていた。
 そんな中、やはり突発的なのは新川だ。
「なぁ、『和』がどうだ?」
「『和』?」
 「和」は「平和」だけではなく、「和風」、つまり日本をも指す。人を「平和」に導こうとする者たちに、この上ない言葉となる。
「へぇ、たまにはいいこと言うじゃねーか」
 宝王子が珍しく新川に賛辞を送った。誰もが一様に頷き、新川の意見に反論しようとする者がいない。満場一致だった。
「次は帝の色ですが、日の丸を表す朱を……」
 続いて林が資料を読んでいくが、その時、バンとものすごい音と共に机が揺れた。
「私はその意見に否を唱える!!」
 力いっぱい机に掌を叩きつけた張本人、聖徳が低い声で言うのにその場は一気にざわめく。一番の軍略家であり誰よりも帝に近い彼だ、何を言うのか見当もつかない。林は嫌な汗を流す。
「え、ええと…朱は日本を意味してるんですが……」
「私が言いたいことはただ一つ。帝に朱が似合わないということだ!!」
 もう我慢ならないといわんばかりに聖徳が立ち上がる。あまりの剣幕に話題の中枢・帝を含めた全員が唖然とし、聖徳を見上げた。被害者である林など、資料を片手に完全に硬直している。
「日本は帝の、帝による、帝のための国だ。つまり、帝を最も魅力的にする色が日本の色!国が帝に合わせるべきなのだ、馬鹿め!!」
 あまりの口調に林は反応できない。普段帝の前ならば丁寧な言葉を使うのに、それすらもない。しかし、その勢いに思わず他の面々は感嘆の声を洩らす。それをからきりに、賛同の声が沸き起こったのだ。聖徳はそれに満足して再び腰掛け、帝と林はため息をついた。
 これで大丈夫なのだろうか。
 二人の心の声は重なった。














< 43 / 95 >

この作品をシェア

pagetop