閃火高遠乱舞


 ものすごい震動がその場に走る。新川の雷と林の水、そしてシーナの呪術が激突しているのだ。天変地異かと見まがうような光景が繰り広げられていた。
 そこに宝王子が炎と共に到着する。
「王子!!」
 紅玉を揺らしながら現れたその姿に、二人は安堵の息をつく。逆に嫌そうな顔をしたのは、シーナだ。さすがの彼も、三対一は厳しいものがある。
「将軍が三人かよ…おい、グウェン!!」
 後半の呟きは通信機越しで聞いているであろう軍師・グウェンダルに向けたものだ。ドイツ語でぼそぼそと会話を始めるシーナを前にした宝王子は、攻撃すべきか悩んでしまう。そんな彼の性格をわかっているためか、補佐官の泉が飛び道具を放った。
 しかしそれは、
「護りの天蓋」
シーナの防護魔法で弾かれてしまう。それに目を見開いたのは、唯一呪術に繋がりをもつ林だ。
「そんな…法術も使えるの!?」
 彼は呪術師と言ったのだ、法術が使えても本当ならば不思議ではない。しかし林は分かっていた、先ほどの「ターニングサークル」は魔女が使う魔術であることを。二つは完全に独立した存在であり、敵ですらある。法術は精神を、魔術は血を力の源とする。その間には大きな隔たりがあり、決して交わるはずがないのだ。
 普通ならば。
「ああ…俺のばあちゃんが魔女の末裔で、ひいじいちゃんが呪術師だからな。先祖がえりだよ、俺は。まぁ、こんな先祖がえりは珍しいけどな」
 唖然とした言葉が聞こえたのだろう、シーナは会話を中断してあっけらかんと真実を告げた。と思えば、すぐさま持っていた杖を振り下ろす。
「撤退許可も出たし、部外者はお暇するわ」
 じゃあな、と軽く言ったシーナは魔方陣を瞬間的に敷き、忽然と姿を消したのだった。
 その同時刻、ドイツ・シュワルツワルトを護っていたドイツ兵は撤退を終えた。



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