閃火高遠乱舞




 ものすごい勢いで景色が吹っ飛んでいく。車などとは比べモノにならないようなスピードの中で、高層ビルが一瞬で流れる。ここがどこかすら、判断できない。
 先ほど関所を通ったため、おそらく首都入りはしているのだろう。深夜にも関わらず、街は明るかった。通りを歩く男女の姿も、かろうじて確認できる。
「…よかったのかよ、これで」
 ぼけーっと頬杖つきながら外を眺めていた視線を、隣の男に移す。濃いグレイの軍服を寸分も乱さず身につけた男は、その視線に顔をあげた。
「構わん。どうせあそこは、大したことない兵糧庫だ」
 そんなことより、と男は話を続ける。
「お前こそ、なぜ黙っていた?」
「…何のこと?」
「とぼけるな、あの『力』のことだ」
 いつもよりも濃く眉間に皺を寄せた男――グウェンダルは、横にいる少年――シーナをきつく見据えた。しかし、そんなことでへこたれるシーナではない。
「だって聞かれなかったし?」
 そんな返しにイライラするグウェンダルを抑えたのは、護衛としてくっついていたライザだ。
「まぁまぁ、今度勝てばいいでしょーよ閣下」
「…そうだな。次からは徹底的に調査し、策を巡らせてから迎え撃つ」
 怒気を根性で抑え込んだグウェンダルは、帰城後にしなくてはならないことを考えては一人、頭を痛める。そんな彼に苦笑するシーナを見て、運転していたライズは「苦労するな」とグウェンダルの身を案じた。



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