閃火高遠乱舞





 しばらくして火計成功の報せが流れた。
そのことに日本軍の士気は大幅に上がり、今まで前に出ていなかった「漆黒」が攻撃を開始する。
「数だけは立派やな~」
「数『だけ』ですがね」
 宝王子の補佐官である伊賀柳・泉兄弟は、小刀を使って敵を討ち落としていく。
さすがに前線なだけあって、敵の数の変化が乏しい。
 そのとき。
「…ここは宝王子のところか」
 聞き慣れた声に、慌てて敵を斬り倒して振り向くと、剣を片手にして騎乗した青年の姿がある。
細身ですらりと長い剣は血でししどに濡れていた。
周囲には大勢の隊員がついている。
「帝!?」
「…たまには武を披露するのもよかろう。鈍ってしまうからな」
 驚きの声を上げる宝王子に、帝はクスリと口許に笑みを浮かべる。
帝は宝王子率いる陸軍の元気な様子を見回した。
「ここは任せるか…」
「お任せ……」
「伝令!海軍の『雷迅』将軍孤立!!」
 帝の静かな命令に応じようとした瞬間、「風神」から報告が入る。
 海軍「雷迅」の将軍、新川斎。
彼は豪胆でありながらも冷静に物事を見られるのだが、熱くなりやすいという欠点があった。
 今回もまた、それだ。
宝王子はその報にガックリと肩の力を抜いてうなだれた。
「致し方あるまい…失うには惜しい人材だ、行くといい」
「……はい」
 帝に促された宝王子は日本刀を手に駆け出す。
帝はそれを横目で見つつ、持っていた剣を振るい始めた。




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