【完】 SECRET♥LOVE 危険なアイツの危険な誘惑
「マスター、いつもの。」
翡翠が3杯目のカクテルを口に運んだ時だった。
懐かしい男の声が翡翠の鼓膜を振動させ、心臓を鷲掴みにした。
もう過去と割り切った事なのに昨日の事のように胸が痛む。
翡翠は目を閉じると呼吸を整える。
そしておかわりしたばかりの3杯目のカクテルを喉に流し込む。
「マスター彼にいつものごちそうするわ」
「かしこまりました。」
マスターは翡翠に軽く会釈をするとビールにトマトジュースを加え始めた。
その光景に懐かしさがよみがえる。
「レッドアイ・・・変わってないのね。」
笑みを含んだ溜息が漏れる。
「あちらのお客様からです。」
マスターのその声が翡翠の存在を男性に気づかせるきっかけになる。
「翡翠・・・」
驚きを隠しきれない声。
連れがいる事すら忘れているようだ。
「おひさしぶり孝之」
翡翠の声はかすかに震えていた。
あの雨の日、翡翠を裏切り捨てた男が目の前にいるのだから。
「あぁ・・・ 元気だったか?」
過去には翡翠への愛情あふれる言葉をささやいていた口からは今となってはそんな社交辞令の言葉しか出てこないのだろう。
「孝之こそ元気だった?」
「俺は見ての通りだ。 あの後結婚して・・・こいつら会社の部下」
「そっ。元気そうでよかった。」
翡翠は自分を捨てた孝之の幸せを目の当たりにすることで、ある感情を再確認させていた。
男を目の前にして、琥珀によって癒されつつあった過去の傷跡がかさぶたを剥がされつつあった。
「翡翠ちょっと待ってて、久々に会ったんだ俺に1杯奢らせてくれよ。」
「部下の人たちはいいの?」
「あぁ。 仕事の反省会も兼ねていたんだが日を改めるよ」
そういうと男は財布から数万円を部下たちに渡し、場所を変えて飲んで帰る様に
せかした。