愛花
圭織は高校生になっていた。

美術部で水彩画を描いていた。

顧問はいろんな絵画コンクールで賞を取っている人で有名人だった。

平岡画伯と呼ばれていた。

油絵を描く人だった。

彼のおかげで美術部は部員も多く、中学の頃のように自由に描けなくなった。

圭織はそれでも絵を描ければよかった。

初めての作品の後圭織は風景画を主に描くようになっていた。

父の絵に影響されたのかもしれない。

゛今日は人物デッサンをする。モデルは僕だ。″

平岡画伯が言った。

真ん中のお立ち台に椅子を持ち込んで窓に顔を向けて座った。

まわりを部員たちが囲んでデッサンを始めた。

圭織は右側の顔を描き始めた。

端正な顔立ちだった。

目が少し奥まって鼻がすっと高く、頬がこけ、唇は薄め、髪は耳にかかり、やわらかなウェーブがかかり、今にも風になびいていきそうな感じだった。

圭織は男の人の顔をそんなにまじまじと見たことが無かったので恥ずかしくなってしまった。

デッサンに集中しよう…

゛真中…大丈夫?顔が赤いよ。熱でもあるの?″

゛大丈夫です。すみません!″

あわてて顔を両手で隠した。

恥ずかしい… 

平岡画伯が笑っていた。

魔法を使えたら子猫に姿を変えて逃げ出すのに…

゛さあ、デッサンが出来たら後はフリータイムにしよう。″

画伯はそう言ってみんなのデッサンを見て回った。

圭織の絵を見てしばらく立ち止まっていたがすぐに隣に回っていった。

゛真中…帰りに準備室に来て。″

゛は…はいっ!″

何か叱られるのかしら…デッサンの時集中出来なかったからかしら…などと考えながら帰る支度をして準備室に行った。

゛真中です。″

゛はい。どうぞ入って!″

圭織は恐る恐るドアを開けた。

画伯はキャンパスに向かって何かを描こうとしていた。

゛真中、モデルになってよ。暇なときでいいから…″

゛え?モデル…ですか?″

゛そう…別に服は着てていいからね。明日の昼休みに来て。じゃあよろしく!″

強引に決められてしまった。

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