愛花
圭織の描く平岡画伯は優しい微笑みをなげかける。

心のなかの恋心をくすぐるように…

゛真中の描く画伯って白馬に乗った王子さまみたいね。″

友達はそう言った。

王子さまかぁ

確かに今の圭織にとって画伯は王子さまに違いなかった。

圭織の絵が完成に近づいた頃、画伯から呼び出された。

絵が完成したのだ。

キャンパスに圭織が妖精になって描かれていた。

青々と葉が茂った木に飛び回る妖精が圭織なのだ。

゛これが私?ステキ!″

゛気に入ってくれたかな?今度のコンクールに出すつもりなんだ。″

肩を抱き寄せられた。

抱きしめられた。

胸がドキドキして心臓が飛び出しそうだった。

゛今度のコンクールに入選したら結婚するんだ。僕の先生で絵画評論家の丸井先生の娘の冴子さんと結婚するんだ!″

け、結婚?

失恋してしまった。

゛おめでとうございます。入選したらいいですね。″

心にもないことを言ってその場を離れた。

入選なんかしなければいいのに…

圭織は一人泣いた。

絵は入選した。

平岡画伯は丸井冴子さんと結婚した。

圭織は吹っ切るために画伯の絵をお祝いに渡した。

画伯はとても喜んでくれた。

圭織の想いを知らずに…

圭織は絵に没頭する事にした。

人を描かなくなった。

風景画を描いた。

しばらくは悲しげな絵を描いていたが、画伯への恋心を封印して思い切った色を重ねてみることにした。

それが成功してコンクールに出品するようになり、佳作な入るようになってきた。

゛真中、油絵してみないか?″

画伯が言ってきた。

゛タッチが繊細だったのが大胆になってきたから水彩より油絵の方がいいかもな。″

゛教えて下さい。″

思い切って言ってみた。

゛いいよ。明日でも道具を揃えてみようか。時間ある?″

゛お願いします。″

一緒に揃えてもらうことになった。

デートみたい…

嬉しくなった。
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