愛花
画材屋さんに連れていってもらった。

゛油絵は描くというより色を置いていくって感じかな…平面じゃなくて立体って感じかな…″

楽しかった。

いつもの学校にいる顧問の画伯でなくて普通の友達みたいで話もたくさんした。

結婚してなかったら意識してこんなに話せなかったと思うほど普通に話せた。

噂なんて無責任なものだ…

゛真中って画伯と付き合ってるらしいよ。デートしてるの見た人がいるって!″

゛不倫?″

゛画伯の奥さんって美術評論家の娘さんでしょ。まずいんじゃない。″

噂なんてホント無責任…

諦めたはずの恋心に火が着いた。

圭織は封印したはずの心を解いてしまった。

゛画伯…あの…″

゛僕…学校を辞めることになった。美術商の仕事を手伝うことにしたんだ。奥さんのお父さんの仕事を手伝うことにしたんだ。″

゛え?それって私のせい?あの噂のせい?″

゛きっかけにはなったけど…以前からあった話しだからね。少し早くなっただけ…かな。″

寂しそうに言った。

゛絵はもう描かないの?″

゛そうなるかな″

圭織は泣きながら

゛ごめんなさい。私が教えてなんて言わなければ…二人で買物なんて行かなければ…あんな噂さえなければ…ずっと絵を描いていられたのに…″

泣きじゃくる圭織の肩を優しく抱きしめ、

゛君のせいじゃない。いつかはこんな時が来るはずだった。冴子と結婚するときからの約束だったからね。僕には絵で食べていくほどの才能はないって言われた。娘を幸せにするためには自分の仕事を手伝えと言われたんだ。″

画伯はとても辛そうに言った。

゛そうだ。最後に真中の肖像画を描かせてくれないか。前は妖精にしてしまったからね。今度は君を描きたい。″

圭織はうなずいた。

涙は枯れることを知らずいつまでも流れ続ける。

画伯はそっと指で涙を拭いながらキスをした。

頬に優しく唇が触れ、唇に触れた。

圭織は真っ赤になった。
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