記憶の桜 -栄枯幻世-
誰か分からねぇのはまずいな…。
下手したら、涼の正体が隊内に広まりかねない。
「てめぇら、犯人が分かるまで片時も涼から目を放すな」
奴らは頷くと、部屋を出て行った。
俺は縁側に続く障子を開け放ち、柱に寄りかかる。
外は月が出ていて明るいが、すぐに月は雲に隠れてしまった。
すると、生温い風が俺の頬を撫で、室内に流れ込んで来た。
燈された火が揺らぐ。
「嫌な風だ…」
生温い風は室内を明るくしていた火を静かに吹き消し、室内に影を落とす。
まるで、風が何かの予兆を知らせているようだった―。