あたしの彼は『ヒドイ男』
「すいません……」
ごほごほと咳き込みながら謝る私に、「いいから吐け」と乱暴に言ってまた背中をさすってくれる。
言葉や態度は冷たいけれど、触れる手はとても優しくて、気が付けば気分は大分楽になっていた。
「あの……、どうして、私が具合悪いってわかったんですか?」
まるでヒーローのように突然現れ助けてくれた彼に不思議に思って、聞いてみる。
「ひとつだけ、まったく手が付かないまま返ってきた皿があるのが気になって、キッチンからフロア覗いたら真っ青な顔の女がいた」
そう言われて、うつむいたままちらりと視線だけを上げた。
自分の髪の間から、彼の顔を盗み見る。
男らしい端正な顔と、不機嫌そうにむすばれた唇。
愛想笑いや媚びることなんかには無関係そうな、ストイックで寡黙な雰囲気。
一見怖そうだけど、あの美味しくて綺麗な料理を、この男の人が作ったんだ。
そう思うと、なぜか胸がドキドキした。
「すいません、美味しそうだったから食べたかったんですけど、飲みすぎちゃったみたいで……」
「無理してしゃべんなくていい。悪いと思うなら、また食べに来てくれればいいから」
無愛想な低い声でそう言うけれど、彼はその場から立ち去ろうとはせずに、私の背をさすり続けてくれていた。
優しい手のひらに、勝手に想いが口からこぼれた。
「すき」
「は……?」
「すきです」
「……あんた、頭大丈夫?」
私の告白に、彼は眉をひそめた。
その不機嫌そうな表情に、私は一目ぼれしてしまったんだ。
それが、私のカズの出会いだった。
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