あたしの彼は『ヒドイ男』
「だから、床」
繰り返しそう言うと、性悪男は気だるげな仕草で濡れた髪をかき上げて、私の言葉を無視する。
血管の浮く男らしく長い腕を伸ばし、テーブルの上の煙草の箱から一本取り出しながら、辺りをぐるりと見回した。
「ライター知らね?」
形のいい唇に煙草を咥え、そう聞いてくる。
「知らない」
「あっそ」
私の返事に小さく肩を上げると、ライターの捜索をさっさと諦めて、煙草を咥えたままリビングを突っ切りキッチンへ。
ガスコンロをカチカチと回し、長身の身体を屈めてまるでガスコンロとキスするみたいに、煙草の先に火をつけた。
そのカズの仕草が、サバンナのオアシスで水を飲むライオンみたいで、私は好き。
逞しい背中に、綺麗な肩甲骨と隆起する筋肉が影を作る。
前髪が焦げないようにかきあげながら、火に顔を寄せるそのうしろ姿に色気を感じてしまう。