透明水彩
カツリ、カツリ――…
自分の靴音だけが長い廊下に響き、こだまする。
先日ケイに案内されたモニタールームや武器庫、様々な事実を知らされた大広間、食事当番が使用する厨房……等々を横目で見つつ、とりあえず出入口まで歩みを進める。
けれど、あまり目新しい所もないようなのでそろそろ引き返そうかと踵を返した刹那、足音とは違う微かな音が、確かにあたしの耳を刺激した。
ポツ……ポツ……ポツリ……
雨音……?
雨、であたしの記憶から思い出されるのは、全くと言っていいほどいい思い出ではない。事実、あたしは雨の日が嫌いだ。
それに、雨をきっかけにして、あまりにも思い出したくない光景が鮮明に蘇るから、あたしは両親の件以来、雨には異常に敏感になった。
元々あたしがいた、7年前の自分の世界に居たときだって、そう。雨の日は自分の意志に反して、正常な気持ちのコントロールさえできなくなる。
雨の日はいつも怖くて、怖くて。
1人になるのが、どうしても嫌で。
自分でも理解できないほど、平常心を保てなくなった。
その症状は、あたしが存在する世界が違う今だって、例外ではない。