透明水彩

けれど、「本当に?」と紡ぎかけた言葉は、叔父さんが「ただ、」と続けたことにより、言葉になることなく口内で霧散した。


「ただ?」

「ああ。ただ、未来は変えることができても、過去を変えることはできない。
それだけは、覚えておいてくれ。」


ずきり、胸に鋭い刃物を刺されたような気持ちになった。
小さく頷き、その心中を悟られないようにと執務室を出る。

“できないこともないけれど。過去は変えられない。”

抽象的な表現だけれど、その言葉が示す重大な意味が、わからないわけでもない。

過去のあたしが未来に存在すること――…

それ自体、普通に考えればありえない事柄なのだ。

2ヶ月。

恐らくそれが、あたしがここに居られる限界。お父さん達のプログラムが完了するまでの期間が、あたしがここに存在できる、リミットなのだろう。
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