透明水彩

――刹那、


「あの、すみません。お伺いしたいことがあるのですが――…」


前方から歩いてきた見知らぬ人に突然話し掛けられ、歩み出そうとしていた足が再び止まる。

3人ほぼ同時に視線を向ければ、妙にかしこまった正装の男性が、柔らかい笑みを称えてあたしを見下ろしていた。

…――そう、“あたしだけ”を。


「……何、ですか?」


得体の知れない違和感を感じながら、恐る恐る問い掛け返した声は、何故か震えて掠れた。そんなあたしの様子を気にすること無く、目の前の男は笑顔を崩さない。

けれど笑っているはずなのに、痛いほどに感じる威圧感。絡み付くような視線が気持ち悪くて、思わず顔を伏せた。
すぐにでもこの場から離れろというかの如く、動悸が速まっていく。


「…――貴方が、高瀬美凪さんですね?」


そして妙に粘着質な声で、笑顔のまま問われた言葉に、ゾクリ、と背筋に悪寒が走った。名前を確認されただけ、傍から見ればただそれだけなのに。

今回のは、訳が違う。あたしの中で、一種の確信めいたものが体中にひしめきだす。

…――何か、ヤバイ。
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