透明水彩
そしてニヤリ、と再び気味悪く口角を上げた男は、何も発することなく、その反動を利用して二撃目をあたし達へと向ける。
ドクドク、と早鐘を打つ胸とは対照的に、ゾクリとするような悪寒が体中を駆け巡るのを感じながら、ただ立ち尽くす。
さっき刺客と出くわしたときと同様、一歩も動かない身体は刹那、ドン、という衝撃とともに藍香にぶつかった。
「藍香っ!早く行け!!」
その衝撃が理人に押されたのだということは、理人が発した言葉により、すぐに理解することはできた。
視界の端に映る藍香がハッとした表情で何度も頷き、あたしの肩を支えながらあたしに逃げるのを促しているのも気づいてはいた。
けれど身体は未だ、地に根を張ったように動かない。目の前の状況から目が離せない。
「み、美凪…!」
「……理人が、殺されちゃう。」
あたしを引っ張ろうとする藍香の声なんて、あたしの耳には届いていなかった。
ただ、ぽつりと呟いた言葉が、紛れも無い現実。鋭利なナイフを振り回す刺客に、あたしを庇った理人が押さえ付けられている現実は、逃れようもなくあたしが、あたしが原因で引き起こしてしまったのだから。