透明水彩
「藍香、美凪!早く逃げろ!!」
刺客の高らかな笑い声の中、自身の身を顧みずに、あたしと藍香を案ずる理人の声が聞こえる。
廃材の破片やらで埋もれた地面に押さえ付けられながらも、切実な表情を浮かべて理人はあたし達の……否、あたしの犠牲になろうとしている。
…――あたしの、せいで。
あたしが、巻き込んだせいで。
そんな思いがさらに膨らむ中、理人を押さえる刺客が右手を大きく振り上げた。その手には、銀色の凶器がしっかりと握られている。
そしてあたしを見て、刺客はさらに口角を吊り上げる。まるで、何もできないあたしを嘲笑うかのように。身を呈してあたしを守ろうとする理人を貶めるように。
茜色の世界、キラリ、と無情にも光るナイフが目に映った瞬間、あたしの中でプツリ、と何かが切れた。
理人に向かって、真っすぐ振り下ろされるナイフ。本来ならば、それが向けられるのはあたしであるはずなのに。何で、理人なの…?
理人が、殺される。殺されてしまう。
あたしのせいで。
やけにスローモーションで過ぎ行く目の前の光景に重なって、血に染まり、変わり果てた両親の姿が、鮮明にくっきりと、記憶としては妙に生々しく、脳裏に映し出された。