透明水彩
「、え……?」
そんな男の呆けた声と同時に、理人の胸を貫こうとしていた凶器は彼に刺さる寸前、ほんの数センチ上の位置で動きを止める。
……否、刺客は動きを止めざるをえなかった。自分自身に起きた異常を、ようやく頭の中で認識して。
「う、うわあぁぁあっ!」
今現在自分自身に襲い掛かる異常現象を理解するのと同時に、驚いて見開かれていた男の目は、熱さと痛みに悶えるようにさらに見開かれる。
そして、訳がわからずマヌケな声を漏らしていた口からは、耳をつんざくような悲鳴が放たれた。
“真っ赤に燃え盛る腕”を振り回しながら、男は理人から離れ、廃材の中をのたうちまわる。その間、どんなに消火しようと試みても火が消えることはなく、しだいに男の身体全てを包み込んでいった。
「う゛あ゛ああぁあ!!」
理人も藍香も、もちろんあたしも。
今、目の前で起こっている出来事を、ただ唖然として見ていたけれど。
あたしだけは、違った。それだけじゃなかった。憎しみや怒りや悲しみ、その他諸々の感情の高まりの中、確かに、左手の中指に焼け付くような痛みを感じていたのだから。