透明水彩


「……いいや、何も。むしろ、ぐったりとして理人君におぶさった美凪ちゃんを見て、驚いたのは俺達だからね。怪我をしていた理人君も顔面蒼白の藍香ちゃんも、妙に冷静で、美凪ちゃんについて特に言及はしてこなかった。」


そしてあたしの不安を見透かしたように、叔父さんはそう言葉を紡いだ。

特に言及してこなかった、何も聞かなかった、だなんて…。
いきなり刃物で襲われた上、命を狙われて。しかもそれだけじゃなく、目の前で突然刺客が発火して、跡形もなくただの焦げと化した。

そんな非現実的な状況下で、あたしに何も無いはず無いのに。隠していることがただ事ではないことくらい、勘のいい彼らが気づかないはず無いのに。それでも、2人は…。

相変わらずな2人の優しさに、尚も甘えて秘密にし続けるあたしは、きっと誰よりもずるい。卑怯だ。

それに加え、あたしをここまで運んでくれたのはやっぱり理人だった。不自然なほどあたしの衣服につく血痕、それは理人があたしをおぶってきてくれたからなのだと、そう言われて妙に納得する。

けれど、手負いの理人にそんなことまでさせてしまったのか、あたしは。
あんな状況でぶっ倒れた自分自身がどうしようもなく情けなくなって、ふがいなくて。やり場の無い気持ちを込め、強く唇を噛み締めた。
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