それは運命のいたずら
「位置について…」
ドキドキドキッ
周りの音が聞こえなくなる。
聞こえるのは私の心臓の音だけ。
「よーい」
いつもどおり…
綺麗なフォームを意識して
パーンッ
ピストルの音が鳴った瞬間、私は走り出した、風のように。
走り抜けると今までに味わったことのない嬉しさを感じた。
先生が一人一人のタイムを読み上げる。
はやく、私のタイム。
乱れた呼吸を調えながら待つ。
「楠本、7秒01」
「やった!
タイム伸びた、って、いたっ」
私は両手を上げてはしゃぎながら喜んでいると、足が絡まりグランドに思いっきりダイブしてしまった。
「はっはっは。
見たか、入江!
楠本様の華麗な走りを。
約束は守ってもらうからね」
入江に向かってウィンクをすると、悔しそうに私を見ていた。
「実杏ちん、天才♪」
沙由香が私に、笑顔で抱き着いてきた。
「うひょっ」
私も沙由香を抱きしめ返す。
「こらこら。あんま褒めると付け上がるからこのへんで」
佑奈が私たちを引きはがしながら言った。
「走ってる所かっこよかったのに、最後にこけるってさすが実杏だよね」
「それほどでも」
「褒めてないから」