それは運命のいたずら


「位置について…」


ドキドキドキッ

周りの音が聞こえなくなる。
聞こえるのは私の心臓の音だけ。



「よーい」


いつもどおり…
綺麗なフォームを意識して



パーンッ


ピストルの音が鳴った瞬間、私は走り出した、風のように。

走り抜けると今までに味わったことのない嬉しさを感じた。

先生が一人一人のタイムを読み上げる。



はやく、私のタイム。
乱れた呼吸を調えながら待つ。


「楠本、7秒01」


「やった!

タイム伸びた、って、いたっ」

私は両手を上げてはしゃぎながら喜んでいると、足が絡まりグランドに思いっきりダイブしてしまった。




「はっはっは。

見たか、入江!
楠本様の華麗な走りを。

約束は守ってもらうからね」




入江に向かってウィンクをすると、悔しそうに私を見ていた。


「実杏ちん、天才♪」


沙由香が私に、笑顔で抱き着いてきた。



「うひょっ」


私も沙由香を抱きしめ返す。



「こらこら。あんま褒めると付け上がるからこのへんで」


佑奈が私たちを引きはがしながら言った。



「走ってる所かっこよかったのに、最後にこけるってさすが実杏だよね」


「それほどでも」


「褒めてないから」



< 24 / 30 >

この作品をシェア

pagetop