最後の恋


「なんかごめん…」


そして少しの沈黙のあと、小さな声でそう言った。


謝ってほしいわけじゃない。

ただ、分かってほしかっただけなんだ。



「私も…ごめん、なんかキツイ言い方しちゃって」


だけど、壊れた空気はなかなか元には戻らなかった。

いつもは終電に間に合うくらいの時間に帰るのに、今日は一時間も早く帰っていった。


一人になった家の中。
シーンと静まり返っている。


そしてふと、頭によぎった。


それは、あの紙袋のことだった。



捨てられてしまった。

自分でしなきゃいけないことを、椎名にされてしまった。

サトルに連絡しなきゃいけない。


結婚できない、指輪は捨てた、と…。


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