最後の恋
「約30年前。私はお父さんとお母さんの娘として命を宿らせ、この世に産まれてきました。大変な難産で産まれてきたと聞きました。それから今日まで私を大切に育ててくれたこと、本当に感謝しています。ありがとう。
お父さんは、小さい頃「本当のお父さんじゃないかもしれない」と思ってしまったことがあったぐらい、とても厳しかったよね。
食事のマナーには特に厳しくて、なんでこんなにも口うるさいんだろうと思った事もありました。門限にも厳しくて何度も怒られたこともあったね。それが嫌で嫌で、一時期お父さんを無視してしまったこともありました。
でも、そんな厳しくてうるさいお父さんだったけど、私が高校に合格した時や、大学に合格した時、就職が決まった時、影では泣いて喜んでいたのだといつもコッソリお母さんが教えてくれていました。私が生まれた時も隠れて泣いていた話を知っています。
本当は涙もろくて優しいお父さんだということは、ちゃんと分かってたんだよ。
あの頃は素直にありがとうが言えなかったけど、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。厳しく育ててくれて、ありがとうございました」
私は泣きながら顔を上げ、後方に目を向けた。
おじさんは、肩を震わせながら涙を流していた。