シンクロニシティー


「離してっ!」

 思わず大声で叫んで掴まれた腕を思い切り振り、母の手から逃れた。


 ハッとしたように目を見張るも、母はすぐ「琴子……」と弱々しい声を漏らして酷く寂しげに私を見詰めた。

 責めるでもなく、咎めるでもないその眼差し。


 こんな時私はいつも、『母はもしかしたら、本当は私を愛しているのではないか』と、とんでもなく都合の良い錯覚をしてしまう。



「今、帰ろうとしてたとこなのに……」

 真実でもあり虚偽でもある言葉を吐いて。
 貰った鍵は、こっそりジーンズのポケットに入れた。


 母の後について玄関を出る直前、我慢できずに振り返った。


< 89 / 296 >

この作品をシェア

pagetop