君を忘れない。
穏やかに吹く秋の風が、少しだけ冷たかった。
落ち葉が、風でカサカサと音をたてながら地面を滑っていく。
そして一平さんは、次の言葉を口にした。
「…初めて会ったあの日から、俺は君に惚れている。」
時が、止まった。
木々も風も、鼓動ですら。
そう思った。
静寂が訪れた。
「それは、本当ですか?」
「嘘偽りなどない。」
嬉しさと、少しの戸惑い。
けれどやっぱり、気持ちが通じたことが嬉しくて、私は再び涙をこぼした。
「私、も…っ。」
一平さんは、そう言った私の顔を見ると、困ったように少し笑った。
「何故泣くんだ。」
指で私の涙をぬぐってくれる。
「…っ。」
その手は慎重で、不慣れで、不器用で。
壊れ物を触るかのように、躊躇いながら。
だけど、誰より優しくて温かい手でした。