君を忘れない。
「…一平さん、好きです。大好きです。」
私がそう言った瞬間、一平さんは私を再び抱き寄せた。
触れ合った体から伝わる、一平さんの体温。
安心した。
「…一平さん。」
一平さんはお互いの顔が見えるくらいまで、体を離した。
「最後にお会いした、夏のことです。」
「………。」
「あの日、私に忘れてくれと言ったのは、何故…」
そこまで口に出して、私ははっとした。
一平さんが、あまりにも切ない瞳で私を見るものだから。
まるで、それ以上聞かないで欲しいと言わんばかりに。
「…なんでもありません。もう十分です。十分幸せです。」
今こうしていられるだけで。
私は一平さんの胸に、顔を埋めた。
「…すまない。」
一平さんは私の頭を撫でながら、そう繰り返していた。