君を忘れない。



「…一平さん、好きです。大好きです。」



私がそう言った瞬間、一平さんは私を再び抱き寄せた。



触れ合った体から伝わる、一平さんの体温。



安心した。



「…一平さん。」



一平さんはお互いの顔が見えるくらいまで、体を離した。



「最後にお会いした、夏のことです。」

「………。」

「あの日、私に忘れてくれと言ったのは、何故…」



そこまで口に出して、私ははっとした。



一平さんが、あまりにも切ない瞳で私を見るものだから。



まるで、それ以上聞かないで欲しいと言わんばかりに。



「…なんでもありません。もう十分です。十分幸せです。」



今こうしていられるだけで。



私は一平さんの胸に、顔を埋めた。



「…すまない。」



一平さんは私の頭を撫でながら、そう繰り返していた。




< 43 / 75 >

この作品をシェア

pagetop