キ ミ ガ タ リ ナ イ
今日は、一段と月が明るくみえる。
ぽっかり浮かぶだけで、ただただ私を照らしていたことに安心した。
…やっと。
やっと、今日が終わるんだ。
肌寒い風が、私の頬をなぞる。
と、その時。
「…どうしたの?」
私の視界が暗くなり、柔らかい声がふってきた。
今までに聞いたこともない声音に、思わず下げていた目をあげた。
「寒くないの?」
「………」
目の前にいる彼は顔立ちが綺麗で、慎とよく似ている。
…だから、慎と何かしら重ねてしまう。
性格や、感情なんか全て。
「……大丈夫です」
「うそでしょ(笑) ほら、冷たいもん」
困ったように笑い、手の甲で頬を撫でたその体温は。
紛れもなく、温かくて心地よい。
慣れない感覚に、思わず体が大きく反応した。
「あ、ごめんね。そんな気はないから、安心して?」
どこか大人で、厚みのある彼の声が。
眉をさげながら笑う彼は。
…慎とは違う、と
そう思えたのは、きっと私の心が新鮮な空気を取り入れたから。