キ ミ ガ タ リ ナ イ
「………」
「俺、水木陽汰」
"ミズキヒナタ"
そう名乗った彼は、柔らかく自然な笑顔を私に向けた。
その姿があまりにも、自然すぎて。
「………ハル。…植原ハルです」
「…ハル、ちゃん」
甘く、優しく、綺麗な発音の響きは。
私の名前を確認しているようにも聞こえた。
だから、久しぶりに自分の名前を心で唱えた。
「今日は、空見にきたんだ」
「……空…?」
私の隣の、もうひとり分座れる場所に、ゆっくり腰を下ろした。
それから、同じように空を仰いだ。
にっこり微笑んで、
「…ほら、綺麗っしょ?」
「……そうかな…」
「まあ、価値観の違いだね(笑)」
月の淡い光も、星の輝きも。
いつもここから見る風景と何も変わらない。
空の違いさえも気づかない私の気持ちは、今どこにいるのだろう。