キ ミ ガ タ リ ナ イ







「………」


「俺、水木陽汰」








"ミズキヒナタ"


そう名乗った彼は、柔らかく自然な笑顔を私に向けた。


その姿があまりにも、自然すぎて。









「………ハル。…植原ハルです」


「…ハル、ちゃん」









甘く、優しく、綺麗な発音の響きは。


私の名前を確認しているようにも聞こえた。


だから、久しぶりに自分の名前を心で唱えた。









「今日は、空見にきたんだ」


「……空…?」








私の隣の、もうひとり分座れる場所に、ゆっくり腰を下ろした。


それから、同じように空を仰いだ。


にっこり微笑んで、








「…ほら、綺麗っしょ?」


「……そうかな…」


「まあ、価値観の違いだね(笑)」










月の淡い光も、星の輝きも。


いつもここから見る風景と何も変わらない。


空の違いさえも気づかない私の気持ちは、今どこにいるのだろう。









< 8 / 9 >

この作品をシェア

pagetop