償いノ真夏─Lost Child─

まばらに建つ小さな家の中に、奇妙に目立った屋敷が一つ。

それが母の実家である深見の家──これから、真郷の暮らす場所。


「着きましたよ」


抑揚のない運転手の声が、無機質に響いた。

いつの間にか、先程まで遠くに見えていた立派な外門が目の前にあった。


「さ、真郷、行きましょう」

一足早く車を降りていた母が、控えめに言う。

真郷が降りると、タクシーはエンジン音と共に、来た道を引き返して行った。


(とうとう、逃げられない所へ来たってわけだ)


既に遠くなってしまったタクシーを見て、そんなことばかりを考えていた。

蝉の声が、いやに耳につく。
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