ワケがありまして、幕末にございます。
午後7時
ピンポーンと素朴な音が家に響いた。
と、同時に足音がこちらに近付いてくる。
またあの人か。
一つため息をついて手元にある梅の枝をハサミでチョキン、切った。
さぁ、どこに挿そうか…
スパンッ
思い切り襖が開かれる。
『…父なら風呂ですけど』
『あらそう、まぁいいわ。
今日はアナタに用があって来たから』
人の家に勝手に入ってはいけないというのは世の中の常識だと思ったけど。
相変わらず礼儀のなっていない人だ。
静かで清らかだった空間に、香水と化粧の臭いが立ち込める。
まるで毒に侵されていくように。