愛する人。




「仕事忙しいんだろ?
 電話してる暇ないんじゃないのか?」


 素直に電話がきた喜びを伝えられずに素っ気なく返すと、兄さんは小さく笑った。



『忙しいのは確かだけど。可愛い弟が心配でね』



 口調で、母さんから聞いたんだと分かった。






『彼女は、元気にしてた?』




 優しさだけを言葉にのせて。

 柔らかく唇から出た一言に、兄の心の深さを知った。




「元気だったよ」


 声を出す瞬間、鼻の奥がツンと痛くて。

 目にゴミが入ったのか、目頭も熱くなった。




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