亡國の孤城 『心の色』(外伝)
三つの緋色の瞳に睨まれたまま、バレンは懐に手を突っ込み………。
彼女の目前に、ある物を指先で摘んで見せた。
………爽やかな笑顔と共に視界の中央に映るのは………………小さな、一枚のクッキー。
「…大量に作り過ぎちまってよ。………この御時世じゃ手に入りにくい材料で贅沢に作ってるんだ。……………………食うか…?」
…作ってからしばらく経っており、それは冷たくなってはいるものの……香ばしい、甘い香りを纏っていた。
……瞬間、威嚇していた彼女の瞳が、クッキーに釘付けになった。
右に傾ければ、彼女は右に首を傾げ、左に傾ければ、左に首を傾げる。
……………しばらくそんな事をしていたが、バレンはクッキーを指先で弾いた。
綺麗に焼けた、コインの如き丸い焼き菓子は、あっという間に………警戒心を解いてしまった彼女の口にのみこまれた。
―――ボリボリ…と軽く噛み砕き、あまり噛まずにゴクリと飲み込んだ。
床にクッキーの欠片が落ちていないか、鼻先を床にくっつけてフンフンと匂いを嗅ぐ。
「………旨いだろ?……菓子なんて食った事無いだろ。………お前、何ヶ月か前にトウェインに拾われたんだったな……………………………名前何だっけな?」
ニコリと微笑むと、彼女はじっとバレンを凝視したまま、ポツリと小さな声で答えた。
「―――……………イブ」
「………イブか。………たまにここに来いよ。また、旨いの食わせてやるよ………」
バレンは、犬でも撫でるかの様にイブのオレンジの頭をクシャクシャと撫でた。