首(外道×貴族)【BL】
貴族の復讐
気が付けばキケロの半径数メートルには、
倒れた人の波ができていた。
「やべぇ・・・」
誰にともなく呟く。
「ついにおでましかよ・・・」
キケロは額を抑え、呻き声を上げた。
大きな陸橋の上、戦闘の始まったのは数分前だった。
来た道と行く道を塞がれて強制、
泥臭い暴力のぶつかり合いが生じ、
前の者を足で、後ろの者を肘で、
複数人を片付けることには慣れていた。
キケロの恐れるのはこの襲撃の意味。
現れるであろう人物の影。
「野郎、タレ込んだか?!」
追い詰めたはずの獲物の抵抗。
それもこちらに致命傷を負わせる強烈なもの。
獲物、ルカス・フィオーレの、
淡々と滲む怒りと闘志は本物であった。
身体的有利はこちらにあるにも関わらず、
威厳と気品でこちらを圧倒する。
この力を持つ人間は、
キケロの生理的に嫌うべき種であり、
本能的に惹かれる種であった。
「・・・良い根性してるぜ」
計画では身体的な恐怖が精神を縛り、
今頃は従わせることができたはずで、
キケロは珍しく人間の内面を見誤ったのだった。
甘やかされて育って来たような、
脆そうに見えた笑みのまぼろし。
「腕、なまってないのねー」
そこで背後、高く癇に障る声が、少しのしゃがれと共に、
キケロの耳に入る。何時の間に階段を上って来たのか。
恐らく真後ろに、立っているのだろう。
「サリトぉ・・・」
キケロにより、立つことのできなくなった一人が、
縋る様な声を上げると、苦笑して屈む。
「だーから気を付けろって言ったんだよ、俺は!」
一方でキケロは逸る心音に焦りつつもすぐに逃避の道を見つけた。
サリトの現れた背後の道と逆、
目の前の道を走れば良いのだ。
蹴った地面の感覚が消える前、
鋭い声が背後から上がる。
背後というよりは真上から。
「逃がすかよ!問題児!」
ガツン、と後頭部に衝撃が走り、
顎が硬いコンクリートの地に打たれ、
倒れた自分を意識した頃には、
既に背骨が限界に曲げられていた。
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