首(外道×貴族)【BL】
貴族の涙
「辞典の次は図鑑かよ?!」
「悪いか」
ツタの這った洋館、キケロの暮らす屋敷は、
不気味なほど美しく寂れていた。
分厚い壁がせめてもの救いで、
ここ一週間、連れ込まれている身は、
キケロの自由にされていた。
「物語を読むと先が気になって止まらない、
 空いた時間に読むのに丁度良いんだ」
「だからって図鑑はねぇだろ」
「辞典よりは重くないだろう」
「あいつに運ばせたりしてたのか?」
「あいつ?」
「ゴドーだよ、聞いたぜ、
 てめぇとゴドーの関係は、
 俺とエリックの関係だ。
 主従・・・」
「ゴドーは友人だ」
「・・・」
「これから先もずっと」
「家の関係がなきゃ、縁もできてなさそうだけどな、
 明らかタイプ違ぇだろ」
「まぁそこは認める」
「いちいち気取った言い方だな!
 突っ込まれてひーひー言うくせによ!
 ほら、さっさと仕舞えよ、時間ねぇ」
「おい投げるな!本は大切にしろ」
キケロの他に人の居ない洋館は、
玄関口で鞄の中身を検査するため、
荷物を広げても支障を来さない。
「埃がついたぞ」
大切なマーカーの、キャップの部分が汚れ、
顔を顰めるルカスにキケロも顔を顰める。
しぶしぶと片付けを手伝いだすキケロは、
やはりあのエリックと数年行動を共にしただけある。
ふとして館内の、暗がりが気になった。
「管理はどうなってる」
五人以上は生活のできそうな広さで、
キケロの暮らす部屋だけが生きている。
埃の溜まった別の部屋への道が、他住人の不在を匂わした。
「大家は一応、いるんだけどな」
寄宿舎、と聞いて想像したものと、
あまりにも違う様子に物怖じつつ、
興味を持っていることは事実で、
訪れる度にきょろきょろとするルカスを、
キケロは面倒くさそうに見つめた。
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