首(外道×貴族)【BL】
不機嫌な声を上げられて、不安になるのは躾けられている証だった。
キケロの気持ちの変化に敏感な自分が憎い。
そこで気分を切り替えたのか話題を逸らそうとしたのか、
キケロはふいに笑みを戻した。
「体操着もえろいよな」
「好い加減にしろ」
「怒んなよ」
ふと、別の視線を感じグラウンドに目をやれば、
ゴドーがまっすぐにこちらを見ていた。
困った顔で、思いつめた瞳が暗い。
不幸に力の貸せないことを恥じるよう、
下を向いて目を逸らされた。
「殴ったんだぜ、俺を」
「・・・」
「あいつ、おまえのために、俺を殴ったんだぜ」
同じ方向を向いていたらしい、キケロの呟きにルカスの胸が痛んだ。
ゴドーが自分と友であることで、苦しむことが悔しかった。
惨い立場に立たせた友人は悩んでいるのだろう。
「・・・和解した振りをしないか」
「あ?」
「おまえも、ゴドーは好きだろう?・・・苦しめたくない。
 俺はおまえの行いを許して、おまえも俺の過去の脅しや嘲笑を許し、
 まだ多少考え方で入れ違うことはあるが、
 良い友人になったことにする」
「・・・」
「そういうふうに振舞うんだ」
「・・・」
「・・・ゴドーの前では」
きゅ、と自分の首を絞めた気がしたのは、
萎縮した心が全てを悲観しているからに違いない。
「ゴドーの前だけかよ?」
「・・・学校では」
「だよなぁ、そうなるよな、当然」
「・・・楽しそうだな」
キケロに喧嘩を売ったのは自分で、ゴドーではない。
キケロに敗北したのは自分で、ゴドーではない。
それなのに、元気を無くしているゴドー・・・。
どうにかしてその悲しみを拭いたいと思う。
キケロの行動は常軌を逸しているが、
ルカスに完全に非がないわけではない。
ルカスの現状はルカスが作った。
ただゴドーの現状はゴドーが作ったわけではない。
< 31 / 42 >

この作品をシェア

pagetop