十五の石の物語
「今は、昼近くです。
この森の中ではずっと夜みたいなものですが、それでも、朝と夜の暗さには微妙な違いがあるのですよ。」

「そうですか…少し、外へでてみたいのですが…」

「では、私がご案内いたしましょう。」

案内人に伴われ、私は家の外に出た。



(暗いな…
これで本当に昼過ぎだというのか?)

しかし、そんな暗い森の中でも、吹き抜ける風だけは爽やかで気持ちが良い。



「あなたはずっとお一人でここに…?」

歩きながら、私は案内人に訊ねた。



「遥か昔には両親がいたのですが……彼らが亡くなってからはずっと一人です。」

「そうだったのですか…それはお寂しいですね。
ところで、ここから森の外までは遠いのですか?」

「ここからだと朝発てば夕方には外へ出られます。
このあたりがちょうど中間地点といったところでしょうか…」

「思ったよりは遠くないのですね。」

「そう。最短距離を進めば一日で出られます。
いつもは朝早くに案内を始め、一日かけて歩いて暗くなった頃に反対側へ出る…といった具合です。
まぁ、たいがいの者は数日かけてこの森を迂回して外の道を行くのですが…」

「そうなのですか…」

「私のような者に案内を頼むのは、余程急いでいるか、物好きな人だけですよ…」

そう話す案内人の顔が、どこか寂しげに見えた。

無理もない。
こんな暗い森の中でたった一人で暮らしているのだから…
私は目の前の案内人を哀れに感じた。



「体調はもう大丈夫なようですが、記憶の方はいかがです?」

「ええ、あなたのおかげで身体の方はもう良さそうです。
本当にありがとうございました。
記憶もほとんどのことは覚えているのですが、この森に入る直前から入ってからのことがどうにもおぼろげなのです。」

「そうですか。しかし、焦ることはありません。
きっとじきに思い出せますよ。」



(…そうだと良いのだが…
もし思い出せなければ、また引き返すしかあるまい。
なにしろ、私はどこへ行くつもりだったかをまるっきり忘れてしまっている。
サリーが何か覚えていてくれれば良いのだが…)



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