Hamal -夜明け前のゆくえ-
「祠稀!」
走って戻るも、祠稀は閉じた目を開けず、反応もない。
「祠稀!? ねえ、返事して……っ祠稀!」
腕を掴んで揺らしても、苦しげな反応しか返ってこない。
声が聞こえないことも、目が合わないことも、流れ出た血の赤さも、恐怖や不安の種にしかならなかった。
……ひどい。
こんなに苦しそうなのに、助けてくれないなんて、ひどい。
助けてよ。誰か、誰か……っ。
辺りを見回しても人の姿は見当たらない。
暗がりの中、目の前にいるのは血を流しぐったりしている祠稀だけで。なにもできない僕こそが幻のように思えて、じわじわと涙が滲んだ。
泣いている場合じゃないのに、無力さが僕を責め立てる。
「――っ誰か……」
誰か、祠稀を助けて。
この期に及んで誰かにすがる僕を、なにもできない僕をどう思ったっていいから、祠稀を助けてよ。
いつどこでだって見掛けるだけの人間が大勢いるのに。
どうして今、誰もいないの。
どうして誰も気付かず、手を差し伸べてくれないの。
同じじゃないのに。
代わりなんていないのに。
僕は僕で、祠稀もひとりしかいないのに……。
どうして僕等を、たったひとりの存在にしてくれないの。
「ふ、うっ……あー……」
はらはら、はらはら。
なんの救いにもならない涙が頬を伝っていく。