Hamal -夜明け前のゆくえ-
荒かった歩調は気付けばよろよろと覚束ないものになり、視界は迫りくるような鈍色に支配されていた。
不規則に路地裏を照らす頼りない灯りの下には必ずと言っていいほど戸口があり、その近くには酒瓶や容量一杯のゴミ袋が置かれている。
人の気配はなかった。
耳を澄ませば聞こえる声は、自分の足音で掻き消えてしまうほど微かなものだった。
……なにしてるんだろ。
こんな汚くて薄暗い、楽しいものなんかない場所を歩いて、どこに行く気なんだろう。どこへ行きたいんだろう。
目の前は行き止まりだった。
右にも左にも道はあるのに、目的地のない脚は目の前にぽっかりと開いた長方形の空間へ身を隠すようにして滑り込む。
外壁にズルズルと背中を擦りながらしゃがみ込み、放り出した両脚を数秒もしない内に抱きかかえた。
顔の右半分が気持ち悪い。
それは額に触れた右手も同じで、付着した血が固まり、乾燥しているような、なんとも言えない不快感があった。
「……落ちない」
何度も何度もパーカーの裾で指を拭っても、固まった血はこびり付いて取れはしない。
「――……」
どこへも行けない。
家からずっと被っていたパーカーのフードを引っ張り、さらに顔を隠した。
血がこびり付いた顔なんて見せられない。
ここへ来る前に、公園にでも寄ればよかった。