Hamal -夜明け前のゆくえ-
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正確な時刻はわからず、曖昧な記憶を遡って夜11時半頃だと判断した。
もうすぐ日付が変わるとは思えないほど、目の前には煌びやかな光が溢れている。
ターミナル駅からいくつか大通りをはさんだアーケードを進むとたどり着く、歓楽街。
外灯や人通りの少ない道を選びながら、迷うことなくここへ来てしまった。
建物と建物のあいだにできた薄暗い細道で立ち止まる。あと10歩も進めば眩しいほどに明るい街へ出る。
明るい、と言うのは些か間違っているのかもしれない。
欲望に溢れた歓楽街はそれを助長するかのように様々な電飾で彩られ、行き交う人々を笑顔にさせている。
――パッと見は、だけど。
酒が飲みたい。性欲を発散したい。憂さを晴らしたい。金儲けしたい。
陳腐な欲望の裏側でなにが起きているかなんて、表面だけ見たってわからない。
それは身を持って経験したことだった。
居場所は自然と生まれるものではなく、与えられなければ見つかりっこないのだということも。
ジャリ……とスニーカーと地面が擦れた音がしたのは、自分の足が半歩後ろへ下がったからだった。
前に進めば、あと10歩ほど歩けば、光と笑顔が待っているのに。
嘘でも、利用されても、一時的に居場所は与えられるのに。
1歩、2歩と後退した足は踵を返し、反転した体は光を遮って、足元にぐんっと黒い影を伸ばした。
情けない。
なにが、とかわからないけど。ただただ情けなさが込み上げて、振り払うように大股で暗闇へ進んだ。