カセットテープ
 女子全員は不服な顔で男子達を睨み付けるように見ている。
「で、つきましては芝先の許可を貰いたく思います。どうですか? 芝先」
 部下が上司にお願いするような態度で、楢崎が芝先を見た。
 もちろんのこと、こんなキャバクラみたいな店を出すなんて女子生徒達は、芝先が普通に反対すると思っている。なんら、心配していなかった。
 だが、そこは芝先、
「いいぞ」とすんなり了承した。
「って、いいの!?」
 何の問題もなく了承した芝先に、思わず大声で突っ込んでしまった英里。
「え? 駄目なのか、閖本」
「駄目に決まってるでしょ!」
「どうしてなんだ?」
 何処が駄目なんだと言いたげな目を芝先が英里に向けた。
「あのね、芝先。ここは高校なの。キャバクラじゃないわけ、わかる?」
 幼稚園児にでもわかるような喋り方で英里は、話した。
「そんなのはわかってるぞ、だって俺高校教師だからな」
「わかってるのならいいのよ」
「その、もっと分かりやすく言って欲しい。いまいち要領を得ないんだが」
「私達女子は下心見え見えの男子達を接待するのなんて、まっぴらなの!」
 芝先を睨み付けるように見て、英里がはっきり言った。今度は女子達が、よく言った、と思っているだろう。
 両者両睨みとはまさに、今の2年D組の男子達と女子達のことだろうと、一人傍観しているキョウは思ったのだった。
「まあまあ、この件には先生に任せてくれ」
 男子の先頭に立って言っている楢崎と、断固拒否の女子の先頭に立っている英里が一触即発のムードを漂わせていた。視線が交わる場所では見えない火花が、バチバチと散っているだろう。
 教室中の視線が二人に注がれる。
 そこに、割って入るように芝先が来た。
「とにかく、先生に任せてくれたら万事問題なく進めるから、この通り今日はおし――」
「芝先さあ、去年のバレンタインにチョコ上げたよねえ。他の人にも貰ってもいたよね」
 英里は不敵に笑いながら言った。
 ギョッとしたような表情で、芝先の動きが止まった。
「来年バレンタインのチョコが欲しかったら、女子の意見を通して、話を進めてくれるよね、芝本先生」
 英里が悪魔のような、反面、天使のような微笑みを湛え、取引という名の物々交換条件を提示した。

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