カセットテープ
 四校舎ある中の三校舎から行く方が隣接している弓道場と空手道場が近いため、そこに向かいキョウと英里は並んで歩いていた。
 そうそう、と思い出したように英里が呟いた。隣を並んで歩いているキョウの横顔を見る。
「知らない」
 英里が何か言う前に、キョウが先手を打つように言った。
「まだ何も言ってないじゃない」
「何か言いだしそうな顔してたから、先に言ったんだよ」
 キョウは無愛想な顔で英里の顔を一度も見ることなく、前を向いて歩いている。
 二階から一階への階段を降りながら英里の口から溜め息が零れた。
「あんたのその冷たい愛想の無さは、今に始まったことじゃないしね」
 英里が一人納得したように頷く。
「あのさあ、川凪文化祭の中でも昔からある伝統的なのあるじゃない」
「ああ、あのくだらない上につまらないやつか」
「そう、それ。あれちょっと趣向変わるみたいってみんなが噂してるの聞いたんだ」
 そっか、と言ったきりキョウが黙った。
 キョウの横顔から正面に視線を移した英里も、それ以上話すことをしなかった。
 三校舎の一階を歩いて行き、奥にある渡り廊下からそれぞれの場所に繋がっている道場の別れ道で二人は、言葉を一言交わしてクラブに向かった。
 弓道場の男子部室に着いたキョウは、弓道衣に着替えた。
 この弓道衣は、上着は白木綿で襦袢形の筒袖に、袴は腰から下を覆う緩やかな衣服で、色は黒または紺の馬乗袴を使用する。
 大会でも練習でも弓道衣を着用しなければならない。野球で言えばユニフォームみたいなものだ。
 キョウは弓道場に足を踏み入れると、すぐに声を掛けられた。
「部長、こんにちは」
 一年男子がキョウに気付き挨拶をした。
 夏に三年生が大学受験のために弓道部を去り、一年の時に全国二位の成績を納めたキョウが、顧問の先生によって部長という立場に押し上げられたのだ。
 もちろんキョウはそのことをすんなりと了承をしなかった。
 けれど、冷たい感じに見られるキョウに以外にも同級生や下級生にもなってほしいと言われ、不承不承ながらも部長になったのだった。
 弓道場に一人一人の和弓が置かれている場所まで歩いていくと、一人の一年女子がまだ着慣れていない馬乗袴を揺らしながらキョウの許まで近づいていった。
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