空しか、見えない
「不思議な人だったよね、義朝って」

 マリカが、両手をふっくらした口元にあてる。ほとんど素顔のはずなのに、目鼻立ちがはっきりして、鼻先やまぶたが透き通るようにきれいだった。同級生の美しさが、佐千子には眩しくもあり、誇らしかった。
 義朝がいたらきっと、彼だって同じようにうれしく思ったろう。そして、照れ屋だった彼はそんなときもきっとまた、えへらえへらとしただろう。人生に投げやりなわけでも投げ出しているわけでもなくて、彼は言葉にできない思いをまるでひとりで噛み締めているかのように、よく笑った。
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