空しか、見えない
 環はそう言うと、チー鱈を歯で引きちぎった。佐千子には、無骨な環の優しさは十分にわかっていた。佐千子が口に出せずにしまい込んでいる気持ちを、彼が代弁しているだけなのだ。中学生の頃から、そうだった。学級委員だった佐千子は、クラスを代表して教師に叱られることが度々あった。家にいても、役割は同じだった。姉だから、妹の分も叱られた。自分では慣れているつもりだったけれど、クラスでは環がすかさず前に出て、先生、サセひとりだけ叱らないで下さいよと、よく物言いしてくれた。
 助かったと感じるよりは、自分で言えればよかっただけなのに、と情けなくなる方が多かったのだが。
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