空しか、見えない
「待たせちゃったかな」

「いや、そうでもないよ」

 のぞむは、グラスの表面の水滴を指で拭う。

「いいバーってさ。この水滴がきれいなんだってさ。雨の日は特に水滴がよく付く。今日はきっとこの後、雨だよ、なんて言ってみたりして」

「予報も、確かそうなっていたみたいよ」

 隣に座り、佐千子はビールを頼んだ。ベストを着た年配のバーテンダーが、薄いグラスを少しずつ傾けていき、表面に立つ泡を切りながら三度に分けてビールを注いでいく。
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