空しか、見えない
 もしも人を好きになっても、そういう関係だけは嫌だと思っていたのに、彼とはもう1年以上になる。
 人の道を、外れている。だから悩むのか、それとも嫉妬ゆえの苦しみなのか、マリカには自分の心の中がわからない。でも、ずっとこんな風に続くのは嫌だと思い始めている。彼といるうちにフランス語が滑らかになり、パリの街の愉しみ方も覚えた。彼を必要としていただけで、恋におちたつもりではなかった。
 でも、窓の外の景色が気になる。まるで焼き立てのパンの香りが漂ってくるように感じる。
 上手に別れる方法を自分の力で見つけなくてはいけないと、マリカは窓からの景色を見つめながら思う。家族と焼きたてのバゲットを食べるテーブルは、誰にだって同時にふたつは持てやしないのだから。
< 381 / 700 >

この作品をシェア

pagetop