空しか、見えない
 唄ったり、タンバリンを叩いたりして、時間はあっという間に過ぎていった。
 すっかり楽しく酔ったはずが、帰りに一緒に六本木の夜の街を歩いていると、義朝がぽつりと言った。

「よかった。マリカの音痴は変わってなかった」

「どうせ、音痴です」

 環は、さらに囁くようにこう言った。

「マリカ、だけどさ、あんまり急に変わると、人って寂しくなるんだぜ。昔のままのマリカは俺たちがちゃんと日本で留守番させておくからさ、疲れたらまた帰っておいで」

 さっきまで大騒ぎしていたはずの環の口調は、優しかった。
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