空しか、見えない
 誰ともデートしなかったわけではない。会社の先輩が紹介してくれた人は蚕を研究する大学院生だった。一緒に近郊の山に登山をした。
 樹木や花の名、鳥の声をたくさん教えてくれたのに、佐千子はついのぞむと較べてしまった。
 何も教えてくれなくていいから、一緒につないだ手を大きく振って歩いていたい。唄ったり、冗談を言ってくれるだけでいいのに、と思った。
 結局佐千子は、のぞむしか知らないのだ。他の男には触れたことがない。だから、待てたのかもしれない。また別に探す気にはなれなかったのかもしれない。
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