空しか、見えない
「会いたいわ。今どこにいるの?」

 訊ねてみると、電話の向こうの相手は、少し咳き込んだ。

「それが、マリカ。少しよくないことになってね。うちの奥さんが、どうやら君の話を、仲間たちから聞かされたようなんだ。ほら、何しろ彼女も元は同僚だったからね」

「……それで?」

 電話を握るマリカの声が、小さくなる。

「彼女は大騒ぎさ。次々、同僚や上司に連絡をして、マリカを辞めさせるように言っている」

「辞めさせる? 私を」

 マリカは立ち眩みを起こしそうになり、実際、電話を握ったまましゃがみ込んでしまった。一見きれいに清掃されているように見えた更衣室だが、床には、誰が落としたのか金色や銀色の髪の毛が落ちている。
< 561 / 700 >

この作品をシェア

pagetop