空しか、見えない
 ゆっくりと進む単線列車の中で、佐千子は本を広げたつもりが、眠ってしまったようだった。
 佐貫町駅を過ぎた辺りから、急に陽射しが眩しくなる。駅舎の屋根が青く塗られた瓦調に変わった。
 上総湊の辺りからは、線路沿いに見える集落の民家も減って、深い山間の樹木が迫ってくる。

「あれー、サセだ。なんだよ、同じ電車だったんじゃん」

 顔を上げると、首からおしゃもじをぶら下げた色の黒い男がひとり、立っていた。遠くの車両から、その格好で渡ってきたらしい。
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