空しか、見えない
 2日目には、小遠泳を開始した。
 元々泳ぐのが得意な上に、水の中で遊ぶのが好きだったのぞむは、純一と一緒に早朝、少し練習をしただけで、勘を取り戻したようだ。海辺での表情がますます輝きだした。
 昼は、ごじべえのおじさんが用意してくれた冷やし中華や、冷やしたぬき、夜は五目寿司やチャーシュー丼。昔と同じで、遠泳本番が終わるまで、カレーは出ない。
「カレーは喉が乾くしな。だいたい、カレーのゲップで、泳ぐ気なくすと困るだろう?」とは、民宿ごじべえの矜持の表れなのである。
佐千子は、自分でそう書いた新聞のコラムを思い出す。
 遠泳本番の出発時刻は、朝食を終えて9時の約束だった。
 約束していた地元の漁船が一隻、8時前には、岸の近くまで来てエンジンを停め、待機を始めた。
 波もなく風も穏やかで、文句なしの天候、予報にも心配はなかった。
 マリカと吉本が先頭となった。
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