空しか、見えない
 おしゃもじは、命札だった。
 紐がついていて、海へ出ていくときには、めいめいがそうやって首から下げて、民宿を出発した。
 浜ではチームごとに砂山を作って、海へ泳ぎ出すときには必ずそこにおしゃもじを差してから出ていった。帰ってきたら、また首にかける。もし、残っているおしゃもじがあったら、海から帰っていない不明者になる。
 砂山からおしゃもじがすべて消えるのが、全員、無事に泳ぎきった証拠になった。
 泳ぎ始める前はお守りのようでもあり、遠泳を終えると、ふたたび首から下げられたおしゃもじは、メダル代わりにもなった。
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